今は昔。

初めて触った精子が自分のモノではないという男の語(こと)。

 


 

 

さっきから話を聞いていて思ったのは、

 

自分の初めてが思い出せないのよね。

 

 

———精通(初めての射精)の話ですか?

 

 

そう。

 

それで思い出すのが、初めて精子を触ったのは自分のじゃなかったって言う。

 

 

———えっ?

 

 

友人のAくんが中1のときには、もう声変わりをして、結構大人っぽくなっていて。

 

でも無邪気な二人だったりする訳ですよ。

 

いつもビリー・ジョエルのレコードを一緒に聞いて「いいね」なんて言ってたはずなのに、

 

ある日とつぜん相談があると。

 

 

「なに?」って聞いたら、

 

「なんかさぁ、出るんだよね」って。

 

 

———最初はみんな不安ですよね。

 

 

それで、ちょっと見てほしいと。

 

 

———その発想はなかったですね。

 

 

当時はよくわからずに「あ、そうなの」って言って。

 

それで彼が「ちょっと待ってて」って言って部屋から出て行ったんですよ。

 

 

で、帰ってきて「これなんだけど」って紙の上に液体が乗っているの出されて。

 

 

俺、ほんとうに知らなくて。

 

「なに、これ?」って触ってみたんですよね。

 

なんかニュルニュルしてて、今考えても屈辱的なのが

 

 

「匂い嗅いでみて」

 

って。

 

 

———A君は何がそこまで不安だったんですか?

 

 

病気だったら嫌だなとか。膿かな、とか。

 

 

———なるほど。

 

 

それで、膿じゃないよねって話になって。

 

それで、その後の記憶が途切れてるんですけど。

 

 

———友人Aの描写とか、ビリージョエルってあたりが、すごい甘酸っぱいですね。

 

 

甘酸っぱいけど、今考えたらすっごく犯された感があるかなと思う。

 

初めてがそれかみたいな。

 

 

———えっ、初めて!?

 

 

イヤイヤ、初めて精子さわったのが……。

 

他人のって触ったことありますか?

 

 

———言われてみるとそんな機会ないですね。

 

 

自分のより先に他人のだったって言うのがまた余計にね。無知が故に。

 

これだけは未だに覚えてる。

 

 

〜第四回下試し(しもだめし)より〜

 

 

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